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数年来、一度生で観てみたかった京劇を、東京芸術劇場で体験して参りましたの。
ぼくの京劇ファーストエンカウントはきっと、今は亡きレスリー・チャンの映画『さらば、わが愛 覇王別姫』だと思います。チャン演じる妖艶な女形が放つ、気味が悪いほど高音の「タ〜ワ〜ン(大王)」というセリフが頭にこびりついて離れません。子どもの頃から歌舞伎の隈取や能面の持つ極彩色で無機質なデザインが好きなこともあり、京劇の瞼譜(れんぷ)にも惹かれているのもありました。いわば東映特撮ヒーローのデザインや名乗りの型は歌舞伎に求められまして、ぼくのような仮面ライダー好きが伝統的な大衆演劇の在りように惹かれてしまうのは自然なこととも言えましょう。

今回は日中平和友好条約締結35周年記念事業として中国国家京劇院が東京、名古屋、大阪をツアーするもの。お題目は三国志の『趙雲と関羽』です。三国志といえば『レッド・クリフ』を観たくらいの知識しか持ち合わせていないのですが、舞台はその赤壁の戦い以前のエピソードで、樊城を追われた劉備軍が、迫り来る曹操軍を迎え討つどさくさの中、劉備とはぐれた奥さんと後継ぎを趙雲が救い出し、さらに関羽が曹操軍を追い払うというもので、そういや奥さんが赤子を趙雲に預けて自分は井戸に身を投げるくだりは聞いたことがないでもありません。

三国志演義でいうと「長坂坡」「漢津口」の一部。

ストーリーはともあれ、何より開幕から怒濤のように迫り来るのは、京劇特有の甲高い音楽と、色とりどりのド派手な舞台衣裳です。曹操軍の武将がスーパー戦隊よろしく横一列で勢ぞろいした絵などは、ジャングルの毒虫かっつうほどの「触れたらヤバい」感をかもし出して、万華鏡のようなめくるめく色と、プージャー的にトランシーな音の洪水にめまいがするほどです。

見た目の派手さにひきかえ、殺陣は歌舞伎同様、型にハマった形式的なもので、いかに緊迫した戦闘シーンといえども「撫で斬り?」的なムーブのふんわり感が、また味わい深いものがあります。

前々から思っているんですけど、中国人は京劇のデザインや世界観をベースにしたゲームを作るべきだと思うんですよね。『京劇 三国無双』なんかあったらぜひプレイしてみたい。

瞼譜キャラの奇怪さもさることながら、麋夫人、甘夫人の2人の劉備の妻の美しいメイクと衣裳にも目を奪われます。子どもの頃、どこかで刷り込まれてると思うんですが、ぼくは顔が真っ白で、つり目の周りが桃色という女性キャラに非常に弱いみたいです。背景の青に映える黄色いドレスや、少し動くたびにキラキラと瞬くティアラも美しく、彼女たちが登場するシーンはずっと目で追いかけてしまいました。ぜひ萌えフィギュア化していただきたい。嘘です。

そんな劉備の正妻と妾さんは女形の役者がやっているのかなと思いきや、パンフレットを見るとしっかり女優さんが演じていたんですね。女形の放つ演技の艶やかさに危うい魅力を感じていた、ぼくの罪悪感を返していただきたい。

かようなわけで、席が前の方だったのでちょっと字幕が見づらくはありましたが、2時間存分に中国ファンタジーの世界に酩酊できました。6月2日までほぼ毎日公演している上、当日券もあるみたいですからご興味がある方はぜひ。いやはや、本当に面白かったです。

関連リンク
京劇三国志『趙雲と関羽』