SNSで話題を集めていた、“空に浮かんだおっさんの首”。その存在を最初に知ったのは、だだっぴろい草原にぽっかり浮かんだ写真で、あまりのシュールさに「素晴らしい!」と脳みそが起立して惜しみない拍手を送っておりました。聞けば、小豆島・土庄で〈迷路のまち〉を展示しているクリエイティブチーム目【め】による仕業(アート作品)だと言うではありませんか。こりゃ、この目で見なくちゃゼッタイ後悔すっぜ、と第2回の公開にあわせ湘南新宿ラインで宇都宮に行ってきました。
駅弁買ってビール買って、湘南新宿ラインのグリーン車へ。いい旅夢気分。
2時間ほどで宇都宮に到着。まずはバスで宇都宮美術館に参ります。
駅からバスで30分ほど。浮上まで時間がないので滞在1時間の予定です。
特別展は田中恭吉・藤森静雄・恩地孝四郎の詩と版画の雑誌『月映(つくはえ)』展。
結核に冒され余命いくばくもない田中恭吉の鬼気迫る作品群が素晴らしかった。
お、これこれ。15時からスタートなのでバスで錦小学校まで戻ります。
「おじさんどこだー?」と田川の付近を歩いていたら、いたいた!
日曜日の午後にぽっかり浮かぶおじさんの首。現実に飛び出したシュールレアリスム。
いろんな角度から楽しむべく川のほとりを歩きます。この存在感、半端ないです。
マンションからにょっきり。こういうのテリー・ギリアムの『バロン』で見たよ。
さらに橋の下からも見あげてみます。牛久大仏か、進撃の巨人か。
基本的に首を左右に振りながら、同じ場所に浮かび続けるおじさんですが。
うまく動画を撮ると、まるで巨人が歩きまわっているようにも見えます。「呼んだ?」
お約束の撮影です。足を止めてケータイで撮影する見物客が多く、橋も渋滞してます。
イベントを知らないでおじさんに出くわした人は驚いただろなー。ある意味うらやましい。
間近で見ると鼻も耳もちゃんと別パーツで造型されています。細かい。
洗濯物とおじさん。移動してたら超怖いはず。怪獣映画的な恐怖。
見ているこちらも異様なハイテンションで、あらゆる角度でなめまわします。
そろそろ日没。最後のツーショットかしらね。
昼間は曇りがちでしたが見事に晴れて良かったです。曇り空は曇り空でよさげですが。
夕焼けにおじさんシルエット。この時間帯に浮上させるのも憎いですな。
錦小学校の校庭。警備員やスタッフも多く、宇都宮あげての作品であることがうかがえます。
気温もグッと下がりました。通りすがりの小学生が「気持ち悪い!」とびびってる。
こんなに集客力があるなら「おじさん風船」や「おじさんまん」を売ってもいい気がする。
寒すぎたので、ひとまずコーヒーと食事で温まって夜の部です。光ります。
四六時中おじさんに監視される世界、という妄想が広がります。そう、妄想が広がるのです。
住宅街におじさんの月があがります。
ものごころ付いていない幼児が見たら、夢として記憶されるかもしれないほどのインパクト。
妖怪つるべ落としか、おぼろ車か。ともあれ禍々しいぜ。
20時、そろそろ撤収だそうです。
ラザロ8万点。
見えにくいですが2人がかりで鼻の穴に手をつっこんでいるように見えたシーン。
さようならおじさん。ミニくまちゃん風船もあげたい。
プシュー。
宇都宮駅まで歩いて餃子を食べました。最終の湘南新宿ラインでした。
この〈おじさんの顔が空に浮かぶ日〉は、もともとは目【め】の荒神明香さんが中学生の頃に見た夢を実現させるべく始まった、足かけ2年のアートプロジェクトのようですが、たかが個人の夢を、莫大な予算と人員と時間を投じて実行してしまったバカバカしさにまず感服しました。
そんな予備知識なしで見ても、オーセンティックなおじさんの首はインパクト絶大です。過去に見たさまざまな映画や漫画、アート作品を思い出し、新たな妄想がどんどん膨らむ。見る者の記憶を引きずり出して、新たな物語をつむぎだす触媒のような存在なのです。「モノクロのおじさんの顔」というシンプルな造型なわりに、非常に力強い。やっぱり人間の顔ってパワーがあるんでしょうか。
さらに、面白いなと思ったのは、この試みが美術館におさまらず、町中の老若男女を巻き込みちょっとしたパニックを引き起こしていたという点です。その状況をも含んだ町全体が〈おじさんの顔が空に浮かぶ日〉という作品であり、我々は作品の一部としてそれぞれの立ち回り演じていただけなのかもしれません。
そして、途中にも書きましたが、現実に飛び出した荒神さんの夢を、小さな子どもたちが見ることで、きっとまた新たな記憶として受け継がれていくのでしょう。「小さい頃、町の中におじさんの顔が浮かんでる夢を見たんだよね」と。それはまるで夢のリレーのようです。
このおじバルーン、浮上にはそこそこのスタッフが必要ですが、フロレンティン・ホフマンの〈ラバーダック・プロジェクト〉のように、全国のランドマーク、もしくは町おこしをしたい過疎地をツアーしてまわるのも面白いんじゃないでしょうか。あるいは宇都宮の新たな観光資産として、定期的にいろんな場所で浮上させるのも良いかもしれませんね。その時は屋台を出して「おじさんの顔風船」と「おじさんの顔まん」は売るべきです。ぼくがテキ屋ならあざとくやります。それは冗談としても、花火大会やイルミネーションに匹敵するイベント性と集客力のポテンシャルを秘めているなと思うのです。
ともあれ、良いものを観ました。いったん浮上はおしまいだそうですが、ぜひまたどこかで観たいです。
関連リンク
・おじさんの顔が空に浮かぶ日
・企画展 - 宇都宮美術館