6月4日から長野県大町市で始まり、のべ来場者数が12万人を突破した「北アルプス国際芸術祭〜信濃大町 食とアートの回廊〜」。開催直前の下見では、まだ制作中だったりスケジュールの都合だったりで観られなかった作品も多かったので、本会期中に行きたいなーと思っていたのですが、6月はバタバタしていて行けずじまい。7月に入り、近隣自治体のプレスツアーと強引にくっつけるかたちで念願の再訪がかなったのでした。
長野県大町市の位置。実は燕岳や槍ヶ岳、鷲羽岳といった北アの名峰も大町市なのね。
バイクで4時間。朝7時から開いてる大町温泉郷・薬師の湯が嬉しい。休憩所で雑魚寝も可。
で、開場の10時にあわせ信濃大町駅のインフォセンターにやって来ましたよっと。
皆川明デザインの公式グッズは大人気でトートは売り切れ。ぼくはバッジを買いました。
コタケマンおそるべし〜市街地エリア
とりあえず前回ほとんど観られなかった市街地エリアからまわります。
《たゆたゆの家》で原倫太郎さんとたまたま再会。府中市美術館で公開制作も始まるとか。
床のプールの水が天井に反射して美しい、1階。
2階は、この地に伝わる妖怪・袋下げタヌキくんをモチーフにした体験型講座の成果が。
何より楽しいのはシャボン玉ウォール。湿度70%以上じゃないとキレイに固まらないみたい。
続いて栗山斉《∴0=1 change & conservation》の会場の2つの土蔵。
1階では熱々の鉄板に水がしたたり落ちてジュウジュウゆうてます。
その水は2階の氷の塊から。消えてなくなったように見えても、かたちを変えて存在する。
──ということを表現しているそうです。こっちはもうひとつの土蔵。
狭い路地を抜けると、軒下を用水が流れる風流な建物がお出迎え。
これが高橋治希《高瀬川庭園》の会場。
越後妻有や瀬戸内でもお馴染み、九谷焼で現地の植物を再現した繊細な作品。
この建物はこの辺一帯の地主・栗林家の使用人の家だったとか。
表の郷土料理店「わちがい」は栗林家の屋号なんだそうですね。後述します。
そして待望の栗林隆作品に対面。ですが、まずは商店街の裏側にまわれとのこと。
どういうことなんだぜ?
わお、すごい行列。
建物の狭い2階に土で再現された黒部渓谷が…。《第1黒部ダム》。
後先考えない泥んこ遊びが最高。狭い室内にはさらに足湯まであります。
5分に1回スモークが焚かれます。まるで雲のようなダイナミズムを感じる。
ようやく建物の表に戻ると、黒部ダムの巨大な壁がそそり立っているという趣向。
建物の魅力という点で捨てがたいのは湊茉莉《みすずかるしなの》。
《高瀬川庭園》と同じく、敷地内に用水路(町川と言うそう)が流れます。心地いい…。
ドローイングはやや単純にして難解かもしれませんね。
で、問題作にやって来ましたよ! コタケマンの《セルフ屋敷2》。
まず何がすごいって、作品テーマも作家のルーツも信濃大町と全然関係ないところ。
ずっと赤ちゃんの泣き声がしている、コクーン的な瞑想ルーム。
トイレの便座を開けると「アケナイデ」の文字。
壁一面にはホルモンのメニューのような謎の言葉群。世界初のホルモン律の詩やも。
クローゼットを開けると神棚。
屋敷の最奥部には心臓音がこだまする精神の洞窟が。浪花のボルタンスキー?
この動物の死がいはコタケマンに似ているような気がする。どんな顔だっけ?
一見、文化祭の工作レベルに見えて、その実センスを感じる。
もうひとつの部屋の奥にはセルフ神社があるのです。
セルフみくじを引いたら「75歳が、人生の分岐点」とのご神託。マジか。
さらに2階もありまして、ここでコタケマンは寝泊まりしていたそうです。
商店街の人たちとの交流もあったそうで、それが北川フラムの狙いだったのかと納得。
なお、コタケマンはこんな人です(左)。しこたま飲んで記憶がありません。
空腹ではないものの前出のわちがい店頭で見た「おざんざ」が気になって入店。
麺のつなぎが納豆の糸! 可愛い店員さんの勧めで大盛りに。味は、ほぼ冷や麦ですな。
満腹…。古い町並みがところどころ残る商店街を眺めるのも楽しい。
黒部ダムや立山黒部アルペンルートの工事で潤った往時をしのばせますな。
猫。もうひとつ面白いのは、水の話。
大町の商店街は南北に走る大通りを挟んで、使っている湧き水が違うのです。
西側が北アルプスから流れてくる男清水。男の子ばかりが生まれたからだとか。
東側が居谷里から流れてくる女清水。こちらも女の子が多く生まれたそう。不思議。
葛温泉の立ち寄り湯へ〜ダムエリア・源流エリア
移動して大町温泉郷へ。大岩オスカール《夢の部屋》は天地逆転したビックリハウス。
新津保建秀+池上高志《不可視な都市〜》は、長靴を履いて塩の上を歩くのが楽しい。
前回お邪魔した《山の唄》も完成。その後、大平由香理さんとは町中で再会。
壇上に立つとミストシャワーが降り注ぐ《ACT》マーリア・ヴィルッカラ。
温泉施設にある岡村桂三郎さんの《龍の住処》も完成。圧巻の休憩所に変身。
栗田宏一さんの《土の道・いのちの道》。なお、ここのソフトクリームが美味だそう。
ぼくはといえば、温泉達人・飯出敏夫翁オススメの葛温泉温宿かじかへ。
白樺の森を臨む慶長の湯が素晴らしか。立ち寄り湯は15時まで。芸術祭来場者は100円引き。
ちなみに源流エリアのオススメ昼食スポットは、蓮華大橋そばの高瀬川。天ざる1250円。
手作りプリン250円もしっかり固くてうまかった。あと、ラーメンもうまそうでした。
現実なのにバーチャル感〜仁科三湖エリア
信濃大町駅の北に位置する木崎湖を再訪。前回は制作途中だった《アルプスの湖舟》。
このエントリで触れていない作品も含め、詳しくは前回もご参照くださいませね。
実は縁側でも作品が展開されていたのが今回の発見。これだけ7月25日までの公開です。
もうひとつの未見作品《ベールの向こうに》。
薄いベールで囲まれただけの空き家が、まるでレタッチ途中の画像のように見える。
本物なのにバーチャル感。
「殺人現場みたい」と言った人もいましたが…。
真打ち?目《信濃大町実景舎》〜東山エリア
前回は外観しか見られなかった霊松寺へ。
建物は相変わらず素敵なんですが、肝心の作品はちょっと地方のみやげ屋ぽいかも。
アナクロな音楽や照明もちょっと苦手。ここはパスしてもいいかな〜。ただ建物はいい。
で、いよいよ目の《信濃大町実景舎》。鷹狩山からの北アの眺望を楽しむ作品。
でも夏は雲が多いのでスッキリと晴れません。できたら朝一がオススメ。
これで終わりかと思いきや、そこは目。こしゃくなネタを仕込んでいます。
不思議なおもしろハウスに子どもたちも大はしゃぎだよ。
ラストを飾るのは土・日・祝前日の20時〜21時半のみ公開の作品。
《花咲く星に》青島左門。暗がりの草原にクラシックが流れ、星みたいな光が灯ります。
光をよくよく観察すると、それは花。
今回で一、二位を争うお気に入り作品でした。残り7回しか公開しないのでぜひ。
そんなこんなで、およそ2日でまわった北アルプス国際芸術祭の旅。クルマかバイクがあれば、2日で全作品を鑑賞することができるのですが、ゆっくり温泉に浸かったり、食事を楽しんだりもしたいというのであれば、3日を見ておいた方がよいかもしれません。
前回も、下見を通じて得たノウハウを箇条書きにしたのですが、今回も新たに得た知見をシャアさせていただきますっ!と──
・インフォメーションセンター等で無料のミネラルウォーター配布
・夏の北アルプスが晴れやすいのは早朝
(10時開場では遅いので、展望台にいるのも手)
・週末の市街地エリアの作品は行列覚悟で
・ランチタイムが思いのほか短い(14時まで)
・朝から温泉に入りたいなら大町温泉郷の薬師の湯
・靴の脱ぎ履きが多いので歩きやすいサンダルがオススメ
・晴れるとメチャクチャ暑いので日傘推奨、通り雨も多い
・その辺の蟻が凶暴で、噛まれるとめちゃくちゃ痛い
・《花咲く星に》では携帯チェアがあった方がいいかも
・《花咲く星に》は暗い環境なのでスマホ撮影NG、三脚推奨
・山岳博物館や松本市美術館にも行きたかったなあ(時間切れ)
これまた思い出したら追記します。
ともあれ会期は残り20日を切りました。しかしなぜこんなに素敵な芸術祭を、夏休み本番前の7月30日で終わらせるのか不思議でならなかったんですが、よくよく考えてみたら8月からは本格的な北アルプス登山と立山黒部アルペンルートの観光シーズンが到来し、紅葉が終わるまでずーっと続くわけで、そんな繁忙期に芸術祭をやっていたら宿も交通も人出もパンクしてしまうからですね。そういう面で大町は勝ち組観光地ではあるんですが、一方でぼくみたいな登山優先の人間からしてみると、立ち寄るのは文字通り立ち寄り湯ていどで、あくまで通り過ぎる場所でしかなかったりして、よそ者にガッツリ足止めを食らわせて土地の魅力を思い知らせるには、こうした芸術祭が絶好の機会なんではないかと思った次第です。実際ぼくも、多くの知り合いや友達ができて、大町は素通りできない場所になりましたしね。
関連リンク
・北アルプス国際芸術祭 Japan Alps Art Festival Official site
・大町のうまい水「男清水女清水」の物語
・創舎 わちがい
・手打ちそば処 高瀬川
・湯けむり屋敷 薬師の湯 | 大町温泉郷の日帰り温泉
・【温宿かじか】公式ホームページ 長野県大町市 秘湯葛温泉